赤岳西壁北峰リッジ(赤岳主稜)
 (南八ヶ岳・2013年2月17日(日)・前夜発日帰り)
 冬期登攀初級(2級下・W-)
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0.はじめに
 赤岳西壁北峰リッジ(赤岳主稜)は、チャレンジアルパインクライミングでは『八ヶ岳の冬期クライミング入門ルート』『北鎌尾根や前穂北尾根など、アルプスの積雪期の岩稜を目指す人はぜひ登っておきたいルート』と紹介されており、阿弥陀南稜・北稜等で冬バリデビューした人がの次の目標として挑戦する超人気ルートです。

 一昨年の4月中旬に初めて行ったときは、無雪期に近いコンディションで今ひとつピンと来なかったので、今度は旬の時期に登ってみようとチャンスを窺っていました。今週末は日曜に移動性高気圧に覆われ、前日の高層天気図から日曜いっぱいは天気が持ちそう。順番待ちを回避しようと平日に計画してもなかなか天気に恵まれなかったし、2度目なら昼までにスタート出来れば、何とか日帰り可能と踏んで(順番待ちがないことが前提)行ってみることにしました。
1.アクセス・アプローチ
●南八ヶ岳中核の山(阿弥陀岳・赤岳・横岳・硫黄岳等)のメインの登山口は、美濃戸口又は美濃戸。車でアクセスする場合、冬期は、一般的には美濃戸口からとなる(美濃戸は車高の高い4WDの車でスタッドレス+チェーン装着でないと無理)。
●美濃戸口へは、関東方面からは中央道小淵沢ICで高速を降り、最初のT字路を右折し清里・野辺山方面へ向かう。途中「大平」交差点で左折し県道484(鉢巻道路〜富士見原茅野線)を15分くらい走る。幅員が狭くなりY字路に行き当たったら美濃戸口・八ヶ岳登山口等の表示に従い右へ道なりに5分程進むと美濃戸口(小淵沢ICより30分弱)。広い駐車場がある(普通車500円/1日)。
●美濃戸へは林道歩きで小一時間(歩行者用に所々ショートカットする道もある)。
●赤岳・阿弥陀岳方面の登山ベースは行者小屋。行者小屋へは、@柳川南沢登山道を登るA同北沢登山道で赤岳鉱泉を経由し中山峠を越える、の2ルートがある。赤岳鉱泉をベースにする等の事情がなければ、通常は@の方が少し早い。ただ、Aは、体力的に楽で、特に降雪直後等は@よりトレイルがある確率が高く、短時間で登れることがある。
●赤岳西壁北峰リッジ(赤岳主稜)は、赤岳北峰より北西方へ伸びる岩稜で赤岳沢を左右のルンゼに分けている。文三郎尾根上部から見ると右ルンゼを挟んで東側に並行しているリッジがそれで、その取付へは、文三郎道がクランク状になって傾斜が少し緩む辺りから(ここから文三郎道は尾根を離れ西方へ屈曲する)左手の赤岳沢右ルンゼの方へ下降気味にトラバース。右ルンゼを渡り対岸の顕著なチムニーから北峰リッジに取り付く。
  建国記念日の連休後に降雪があったようで、「大平」交差点より先、鉢巻道路に入ると雪道となり所々アイスバーンでスタッドレスでも時々横滑り、ハンドルを握る手に力が入った。

 美濃戸口へ着くと車載の温度計は-19℃、あまりの寒さに準備に手間取り出発が6時近くになってしまう(日帰りには遅すぎと焦る)。今シーズンの八ヶ岳(太平洋側気候に属する山)は、2月にしては異例の雪の多さ。


 アプローチに時間がかかるのではと案じていたが、柳川南沢登山道も3連休のおかげか広いトレイルがあり助かった。ただ、これだけ雪があると、無雪期・残雪期より歩きやすいのは有難いが(行者小屋まではアイゼンなしで歩ける)、目標ルートの状況の方が心配になった。

←柳川南沢登山道
行者小屋と横岳西壁
 行者小屋と横岳西壁
  行者小屋は屋根から軒先まで雪がつながっていて、通常の八ツなら3月くらいの風景に思えた(案内板は出ており昨年4月初旬よりは少ない)。小屋の前も新雪にすっぽり覆われていて、テン場周辺の踏み固められたスペースで多くの登山者が出発準備をしていた。 
 驚いたのは、日曜の9時過ぎなのに、一般登山者に混じって登攀準備中のクライマーが少なくとも5〜6パーティーはいたこと。この分では、「遅いから順番待ちはない」という読みは完全に外れそう。
 妻などは「まだ、登るつもり?」とすっかり諦めムード。今更ジタバタしても仕方がないので遅い朝食を摂り、おもむろに準備にとりかかる。とりわけゆっくりしたつもりはなかったが、寒いせいか何をやるにも時間がかかり(うっかり物を落とすと雪の密度が低いので埋もれてしまって大変)、出発できたのは10時を過ぎていた(バリエーションスタイルのパーティーでは最後)。
  中岳沢右俣(阿弥陀方面)を分け左側の雪道を登っていく。気が抜けたのではないのだろうが、妻は行者小屋を出てからずっとスローペース。私たちの井出達を見て一般登山者が道を譲ってくれても、文三郎尾根の急登が始まると息が上がって、結局は抜き返されることになった。
 なお、文三郎道の鉄階段や鎖はほとんど雪に埋もれており、一般道で赤岳に登頂する場合でも、ピッケル・アイゼン(前爪あり)必携(特に下り)。
  登山道がクランク状になり東方の展望が開ける。赤岳沢右ルンゼへの下降点はもうすぐだ。右ルンゼの方を目で追いながら歩いていると、相前後して北峰リッジ(赤岳主稜)と思しき3パーティーとすれ違う。もう終えてきたのかと思い、立ち止まっていたパーティーの一人に聞いてみると「稜線は風が強いし、天気が崩れそうなので登らずに引き上げる」とのこと。今朝入手した赤岳の予報では依然として低温注意報は出ていたものの、『月曜の午前中まで穏やかな晴天』となっていたので、下降点まで行って様子を見ることにする。
2.北峰リッジ(赤岳主稜)登攀
●北峰リッジは1本のリッジではなく、中間部で上下2本に分かれている。この記録では便宜上、上のリッジを「上部岩稜」、下のリッジを「下部岩稜」と呼ぶことにする。
●下部岩稜を登っていくと、上部岩稜は少し左(東)にオフセットした位置にあり、下部岩稜の上部にある「中間の岩場」付近では、二つの岩稜が並走し、その間はルンゼとなっている。
●下部岩稜から上部岩稜へ移るには、上部岩稜下部に困難な岩場(後述の「ピラミダルな岩峰」)があるため、通常は、上下両岩稜間のルンゼ(以下このルンゼを「上部岩稜の取付ルンゼ」又は「取付ルンゼ」と呼ぶ)を登り、そのツメから上部岩稜に取付く。
以上を前提として、下降点から北峰頂上まで登攀部分を、次の4つに分けてみた。
なお、@はアプローチに属するが、私たち初心者の場合は、ロープを付けての行動となるので、こちらで記述することにする。
@  赤岳沢右ルンゼへ下降し北峰リッジ取付(「下のチムニー」)まで登り返すトラバース区間(60m,1〜2P)
A  下のチムニーから「中間の岩場」取付までの「下部岩稜」前半の登り(130m,3P)
B  「中間の岩場」と「上部岩稜の取付ルンゼ」のツメまでの「下部岩稜」後半の登り(100m,3P)
C  「上部岩稜の取付ルンゼ」のツメから北峰までの「上部岩稜」の登り(115m+α(雪の斜面),4P)
(1)北峰リッジ取付へのアプローチ
 下降点には文三郎道を登る人が休んでいるだけ(順番待ちはなさそうだ)、雲は多いものの時折薄日も射す天気で、何よりほとんど風のない絶好のアタック日和に見える。
眼下には、赤岳沢右ルンゼの方へトレースが一本伸びており、北峰リッジには中間の岩場(9Pで登った場合の4P目)を登っているパーティーが一組見えていた。
 不安材料がないわけではなかった。まずは、妻の体調が今一つなこと。ただ、この点についてはあまり心配していなかった。それは、前回も文三郎道でバテており、その時に比べれば今回の方がまだましな様子。また、クライミングは山歩きよりペースが遅いので心肺機能への負担が小さいせいかアプローチでバテていても、いつも登攀時には回復していたからである。
 北峰リッジ取付へのトラバース
 は「下のチムニー」と雪の詰まったルンゼ
  むしろ本当の懸念材料は、何といってもスタート時間が遅いことである。下降点に着いたのは11時半でこれからロープを出したりして準備していると、スタートできるのは昼近くになるだろう。「昼前にスタート出来れば」と書いたが、確実に3時間程度で登攀できるだけの実力があればの話(標準タイムは取付から北峰まで2時間半〜4時間)、前回はかなり待たされたこともあるが、残雪期で5時間半もかかっているのである。

「リスキーなチャレンジはやめとけ」という心の声がする一方で、「天気も予報通り、マイペースで登れるし、こんなチャンスはなかなかないよ」と悪魔のささやきも聞こえてくる。
いつもなら安全策を採るのだが、やはり2度目ということで珍しく強気になっており(こういう時は危ないのだが・・・)、思い切ってアタックすることにした。
とはいえ、当初の予定より1時間以上遅いスタート、また、下降点から主稜取付きまでの60mのトラバースもあるので、16時北峰到着をタイムリミットとすると、前回の待ち時間分以上の時間短縮が絶対条件である。
 そこで、@1〜2P登ってみてルート状況や時間を勘案してその先の進退は改めて検討。Aダブルロープはやめてシングルで登る。B容易な3〜4P及び7〜9P(全てスタットで登ったとすれば9P)はコンテ。Cスタカットのピッチはすべて私がリード(∵妻は先月指を痛めたせいかリードは勘弁とのこと)という方針で臨むことにした。
 北峰リッジ(赤岳主稜)の取付は、文三郎道の下降点からも確認できるチムニーのあるところ。ロープを結びトレースにそって南峰リッジ末端の山腹から右ルンゼへトラバース。
 北峰リッジ1P目取付
 ルンゼの前に門のように「下のチムニー」が立ちはだかる
 雪は前回と比べると格段に多いものの、クラストした雪面のため、トレースが細い。せいぜい数人分のツアッケとアックスの跡で、これだけで判断すると、今日は前述の先行パーティー以外通っていないように見えるが、晴天の日曜でそれは考えにくい。今はほとんど風がないが、朝方は痕跡を消してしまうほどに風が強かったのかもしれない。
 クラストした急な雪面をスタスタ歩いて行けるほどの雪上技術は持ち合わせておらず、ちょっと怖かったが、蹴りこんでみると堅いのは表面だけで中は柔らかい最中雪、時間はかかったが、ステップを作りながら一歩一歩前進する。中間支点は一段下りたところに出ていた立木で1本取ったきり、杖代わりのアックスがしっかりしたアンカーになりるのでザックに付けているもう1本のアックスの出番はないまま右ルンゼ左岸に達してしまう。手前の岩にあるペツルのボルトは見つけることが出来なかった。ロープがいっぱいになったので(50m)、右ルンゼから取付のチムニーまではコンテで登り(10m)、取付で妻をビレーする。
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