一ノ沢コースから常念岳
(北アルプス南部)その1
ウェストンの足跡を訪ねて

2011年10月12日(日帰り)
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常念岳(1997年11月北穂沢上部より)

【はじめに】
 常念岳には、徳沢や三股から蝶ヶ岳経由で登ったことはありましたが、1894年8月にウェストンが登ったと思われる『一ノ沢ルート』は歩いたことがなく、今回はそのトレースが目的。
 ウェストンは烏川河畔の岩原を起点に、沢を遡行して、山頂北側の鞍部(常念乗越?)で幕営、翌日常念岳へ立ち、往路を岩原へ下っています。何度も渡渉したり、困難な高巻き(右岸側)もあったようです。
 一方、「現在の一ノ沢コース」は、概ね左岸の川床から離れたところに拓かれた整備された登山道で、初心者向きのハイキングコースとなっています。
ただ、標高差は常念乗越(2466m)まで事実上の登山口である一般車用駐車場(1230m*)から1200m以上あり、さらに常念岳(2857m)までの約400mを加えると1600m強です。ポピュラーな一般道とはいえ、決して楽とは言い難いコース。もっとも、普通のハイキング装備で荷物はないも同然ですから(防寒着や最低限のビバーク装備は当然持参)、私たちでも十分日帰り可能な範囲。また、週真ん中の平日休みなら、紅葉期の一般道でも静かな山歩きが出来るのではと思い、行ってみることにしました。

*登山口はヒエ平(標高1360m、登山ポスト・トイレあり)ですが、車の場合、登山口は関係車両以外は駐車禁止のため、ヒエ平より1.1km下の無料駐車場(標高1230m)から歩くことになります。

【山行記録】
10/12(水)朝方曇りのち晴れ

0.ヒエ平まで(アプローチ)
 週真ん中の平日休み、天気もよさそうなので、週末は混むマルチピッチルート(小川山)へ行こうかと思ったが、妻が乗り気でなく、代案として浮かんだのが、「一ノ沢コースから常念岳」。
このコースは2005年版のエアリアマップでは登山口のヒエ平から往復9時間30分、さらに車でアプローチの場合駐車場からヒエ平まで車道を歩かなくてはならないので(往復で30〜40分)、都合10時間の行程ということだった。

 明るくなったらすぐ歩き始めるつもりで逆算して午前2時過ぎに自宅を出発。睡眠は、移動時間が長くなりがちな前夜発車中仮眠より質量ともに取れたようだ。
長野道豊科ICまでは順調だったが、烏川橋から一の沢方面へ向かう道に入り損ねて少しタイムロスした(豊科IC方面から来る場合烏川付近で2度連続して左折があり見落とした)。それでも、なんとか6時には駐車場に到着。

 駐車場はヒエ平まで続く舗装された林道の左手にあり、20〜30台程のスペースがあった。平日なのに既に半分近く埋まっており出発準備をしていた。
 ヒエ平の登山口へは車で走ってきた舗装道路をさらに15分程歩く。林道終点が車の転回ができる小広場となっており、正面にトイレ、右手に登山相談所の建物(登山ポストあり)があった。妻がトイレに行っている間コンタクトレンズを運転用のものから日常使う度数の弱いものに取り替える。老眼が進んで運転用レンズでは地図を見ることが困難なためだが、後で不都合が生じた。

1.常念乗越まで(一ノ沢コース)
(
)ヒエ平(1360m)〜烏帽子沢(1750m)距離2.8km 単純標高差390m
ヒエ平登山口(登り距離起点・標高1360m/トイレ登山ポスト)6:25/30--山の神(ヒエ平(以下ヒ)より0.5km・標高1480m)6:39--大滝(ヒ2.1km・高1610m)7:13--烏帽子沢(ヒ2.8km高1750m)7:32
一ノ沢左岸を歩く箇所 烏帽子沢を渡る
車止めチェーンの脇から登山道に入る。一ノ沢の左岸側に拓かれたよく整備された道で、一ノ沢から少し離れているし樹林に覆われており、あまり沢沿いという感じがない。すぐに祠の祀られている「山の神」、ここで家族連れ3人をパス、しばらくは緩やかな登りが続く。

 右手からいくつもの支沢が入ってくる。ぬかるんでいるところもあるが(古池あたり)、大抵は一跨ぎで渡れ、長雨の後でもなければ靴を濡らすことはなさそう。丸木橋で顕著な枝沢を渡ると、視界が開けて一ノ沢に出るところがあった。山ガール2人が休んでいて道を譲られる。

 その後樹林の中に戻るが今までより沢寄りで、もう一度一ノ沢沿いを歩く箇所があった(ここには増水時の高巻道もあり)。すぐに「大滝」の道標が現れる(すぐ先に手書きの「王滝ベンチ」の道標もあり)。どんな滝だろうと覗いてみるがそれらしきものは見つからず、かわりに目にとまった真っ赤なナナカマドの実を撮った(紅葉はしていない)。

 右から大きな涸れ沢(烏帽子沢)が入ってくる。一ノ沢との出合からこの沢を僅かに登り丸木橋を渡って対岸へ。増水すると、厄介な渡渉になりそうなところだった。
烏帽子沢は距離上はヒエ平〜常念乗越の中間地点ということで(標高差から見ると1/3)、ザックを下ろし休憩。
()烏帽子沢(1750m)〜常念乗越(*2460m)距離2.9km 単純標高差410m
  *道標表示の標高
烏帽子沢(ヒ2.8km高1750m)7:32--笠原沢(ヒ3.5km高1900m)8:01--(渡渉:左岸→右岸→左岸)--胸突き八丁(ヒ4.3km高2090m)8:28--(左岸の高巻き)--最終水場(ヒ4.7km高2250m)8:43/48--(尾根道)--ベンチ(ヒ5.2km高2400m)9:04--常念乗越(ヒ5.7km高2460m)9:21/30
水流のある笠原沢を渡る 一ノ沢の沢床に出て右岸へ渡る
 烏帽子沢を渡ると、笠原沢出合までしばらくは一ノ沢より一段高いところを歩く。
 笠原沢は水流のある枝沢で、この沢を丸木橋で渡ると、程なく一ノ沢の河原へ出た。漸く晴れてきてガスに覆われていた谷間が少しずつ姿を現す。
一ノ沢右俣を再び左岸へ渡り返す
 一旦右岸に渡り(丸木橋)少し河原を歩いて再び左岸に渡り返すのだが、その間に垣間見えた一ノ沢右俣は両岸の狭まったV字状の谷だった。右岸の河原歩きから今朝常念小屋を発ったと思われる人と時折すれ違うようになる。
 左岸に戻ると「胸突き八丁」の道標、この先は左岸の高巻道でしばらく急な登りとなる。下山者が増えてきてやり過ごすのに少し時間がかかった。ジグザグ登りが終わると、左が切れ落ちているものの、何とかすれ違いが出来るくらいの幅で転落防止のトラロープもあった。概ね水平であるが途中2箇所ほど沢を横切る箇所があり、その前後は少しアップダウンがある。
最初のものは右側から落ちてくる顕著な涸沢(「福助落とし」)を渡るところで、後のほうは水流のある横通沢(一ノ沢右俣右沢)の沢床まで下り、その左岸沿いを登り返す箇所。
左岸の高巻道 福助落とし
横通沢(↓が最終水場)
 なお、横通沢にはペンキの×があり、ここは右手にある道を登り、一段上がったところで横通沢を渡った。
渡った先の尾根の取付が小広場となっており「最終水場(2250m)」だった。冷たい水で喉を潤し、小休止。水は各自2L以上持っており、補給はしなかった。


ところで、一ノ沢というとウェストンよりむしろ、10年程前に読んだ雪崩遭難(1987年1月1日)の捜索記録「いまだ下山せず(泉康子著・宝島社文庫)」を思い出す。その少し前、三股から新雪の蝶ヶ岳へ足繁く通っていた時期があり、12月にも登ったことがあったので(夏道が利用できた)、槍穂高ならともかくその東側前衛の常念山脈の沢で正月に雪崩が起きるものかと当時は少々驚いた。今回一ノ沢コースを歩いた後、改めて読み返してみると、いかに冬季の一ノ沢を歩くことが危険であるかが解ったような気がした。一ノ沢は前常念・常念岳・横通岳からいくつもの枝沢が合流し、稜線から風で飛ばされて
きた雪が集まる地形。たとえ稜線が寡雪であってもそれだけでは雪崩のリスクを回避できない。特に遭難地点として結論付けている乗越沢と横通沢が合わさって一ノ沢右俣となる地点は雪崩が起こると逃げ場のないところ。帰宅後地形図を拡大して確かめてみると、そこは最終水場の一段下で夏道もそのすぐ近くを通っていた。
水場から尾根道を登る。時折常念岳が見える。 閑話休題
 最終水場からは、乗越沢(一ノ沢右俣左沢)左岸の尾根道となる。時折樹林が切れると左手に前常念と常念岳が台形状の山容を現していた。なかなかの急登で、合戦尾根(燕岳)を模したのか、途中には第一ベンチ〜第三ベンチの手書きの道標と形ばかりのベンチがあった(但し、距離や標高の表示があるものは単に「ベンチ」となっている一箇所のみ)。

 30分ほどで突然視界が開け、小屋の吹流しが見えた(常念乗越)。ザレた稜線上は風が強くシャツ1枚では身震いするほどの寒さ。流石に日帰りハイキング装備なので、ここまでは順調に来ている。ただ、頂上まで約1時間が残っているし、下山後、須砂渡のウェストン像を見に行く予定なので、そうゆっくりもできない。小屋へは立ち寄らず、乗越東端のハイマツの陰で雨具を羽織り行動食をとる。この間に単独者2人が登ってきた。
常念乗越
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