一ノ沢コースから常念岳
(北アルプス南部その2
ウェストンの足跡を訪ねて

2011年10月12日(日帰り)
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一部工事中
【山行記録つづき】
2.常念岳登頂及び下山
(1)常念乗越(2466m)〜常念岳(2857m)単純標高差391m
常念乗越(標高2466m)9:21/30--常念岳(標高2857m)10:10(kn)〜28(mon)/11:00
常念岳(常念乗越より)
 常念乗越から常念岳は見た目は近そうだが標高差はほぼ400m。一ノ沢コースは割と楽だったが、どんな山でも程度の差はあれ一度は辛い登りがある。今回はこの登りがそうであった。
常念岳は、蝶ヶ岳からの縦走ばかりで(三股・徳沢へ下山)、こちらは初めて。確かに縦走時も直下が少し急で頂上間際は息が切れる登りだったが、地形図を見てそれと大差ないと少々なめていた。ただ、この山に登ったのは直近でも17年も前のこと、そのころより体力が落ちていることを計算に入れていなかった(最近歩く山が減ってきていることも一因か?)。

 妻は今までの登りで既に疲れていたらしく最初の分岐を過ぎて(前常念へ至る常念東側山腹のトラバース道)すぐペースダウンしてしまう。「先に行って写真でも撮ってて」というので、遠慮なく先行。しばらくして振り返ると、妻とは大分距離が開いてしまい、小屋から出てきた単独者にも追いつかれそうになっていた。今日は珍しく空身に近い状態、今どれくらい歩けるのか知りたくなって、後続の単独者と張り合ってしまった(大人気ない)。
 ハイマツ混じりの登山道は岩がゴロゴロしており、オーバーペースで呼吸が乱れてくると、バランスが崩れて歩き難く感じた。時折段差のある登りもあるし、中間部からは道が

りと下りが別れていたり、よく踏まれている道の他ショートカットする踏跡ができていたりして適宜選択しなければならなかった。

 当初は眼下に見えた単独者は振り返る度にみるみる迫ってきており、まるで「だるまさんがころんだ」の鬼をやっている気分。三股分岐に達した頃には数m後ろまで迫られたが、接近してペースを落としてくれたのか、何とか先に頂上に立つことが出来た。
 祠のところで呼吸を整えていると、蝶ヶ岳ヒュッテを朝出たという若い夫婦が登ってきた。空はすっきり晴れわたっていて頂上は360度の大展望、だったらしいが(富士・南アルプス・中央アルプスまで見えたらしい)、方位盤と照合しながらその方向を見ても度数の弱いコンタクトでは遠くの山はさっぱり分からなかった。
朝の光線状態の良いうちにせめて槍穂高でもと、パノラマ写真を撮る。ここは周囲の山がたくさん見えてパノラマを撮るには良いのだけど、「展望が良い山」の多くがそうであるように、どの山も少し離れていて、レンズを通すとメリハリのない散漫な風景に思えた(槍穂高に全く雪がなかったこともその一因か?)。個人的には目の前にドーンと穂高のある蝶ヶ岳の展望の方が優れていると思う。
穂高・槍(常念岳山頂より)
 その後4パーティーほど到着するもいずれも三股からで妻はなかなか登ってこない。そろそろしびれを切らし始めた頃、常念小屋方面からの単独者の後に漸くその姿が見えた。途中で完全にバテてしまったとのことで20分ほど遅れていた。頂上は大分混んできたので一段下で大休止とする
(2)下山
常念岳(標高2857m)11:00--常念乗越(下り距離起点・標高2460m)11:34/37--ベンチ(常念乗越より0.5km標高2400m)11:46--最終水場(乗1km高2250m)12:00/05--胸突き八丁(乗1.4km高2090m)12:18--笠原沢(乗2.2km高1900m)12:36--烏帽子沢(乗2.9km高1750m)12:54--大滝(乗3.6km・高1610m)13:10--山の神(乗5.2km・標高1480m)13:40--ヒエ平登山口(乗5.7km・標高1360m)13:47--駐車場14:00
 11時に隣の単独者が常念乗越へ下り始めたのを合図に(常念小屋では11時から昼食サービスをやっているとのこと)漸く重い腰を上げる。いつもは下りの速い妻が(よく置いていかれる)不調で歩き難くそう。この分では時間がかかりそうなので小屋のランチは諦めることにした(遅くとも15時前には下山したかった)。

 往路を淡々と下る。まだ、続々と登ってきて烏帽子沢までは頻繁にすれ違いがあった。中には河原でのんびり昼寝を決め込んでいる人もいてちょっとうらやましかった。

 アップダウンがない道は楽ではあるが烏帽子沢を過ぎ樹林の中に入ってしまうと変化に乏しく単調、少々うんざりしてきた頃「山の神」の道標が現れホッとした。登山口は素通りし、そのまま一ノ沢林道を駐車場へ下る。車の数は出発時と大差なかった。下りは少し時間がかかったものの、それでもまだ早く、予定通り須砂渡へ向かうことにする。
3.ウェストンの常念岳登山
 冒頭にウェストンが「一ノ沢」から登ったと書いたが、実は『日本アルプス登山と探検』には『一ノ沢という記述はない。『登山と探検』からは烏川を遡行して『目指す峰の北側の鞍部』へ上がり(ここで幕営)、翌朝1時間で常念岳に立ったことが分かるだけである。
 ただ、ウェストンは常念岳でも高度測定を行っており、その測定値(3000m)は実際より約140m高くなっている。そこで、この測定誤差を用いて北側の鞍部』の測定値(2580m)を修正してみると、その標高は約2440m、また、そこから頂上までは1時間』かかったとあり、標高、頂上までの時間、さらに鞍部での展望描写から、『北側の鞍部』は常念乗越(2466m)であると思われた。
確かに、烏川上流は他に二ノ沢、本沢(三股方面)もあるが、この推定が正しければ、ツメが常念乗越となるのは一ノ沢しかない。ただ、ウェストンの登路を一ノ沢とする記述はいくつもあったが、残念なことに根拠となる文献等を示したものは見つけられなかった(注1)
 実際に歩いてみて、常念乗越〜常念岳の状況はウェストンの安山岩が壊れてごつごつした北側尾根の登り記述に近いものであったが、『北側の鞍部』までの登路が一ノ沢であるかは、「一ノ沢コース」を歩いても分からなかった。ウェストンの記述には地形等に関するの描写が少ないうえ、「一ノ沢コース」は大半が左岸の沢床から離れたところを通っていて、沢の様子を観察するには不十分だったからである。  

 須砂渡へ行こうと思ったのは、古いエアリアマップにウェストン記念館なるものの記載があり、ウェストンが登ったルートについて客観的な手がかりがあるのではと期待してのこと。ところが、2005年版のエアリアを見ると「記念館」の表示が「ウェストン像」に変わっており、既に閉館してしまったことを知った。
 その場所へ実際に行ってみると、小広場に帽子を被ったウェストンの胸像がぽつんとあるだけ。少々がっかりしたが、脇の説明に『一ノ沢を登り』の記述を見つけ、漸くこの件は片が付いた(注1)
(注1)後日蔵書を調べなおしてみると、ウェストンのフィールドノート(手書きの山行ノート)を直接訳出しした『日本アルプス登攀日記(W.ウェストン・三井嘉雄訳・平凡社)』に『一ノ沢』が明記されており、ウェストンが間違いなく「一ノ沢を遡行して」常念岳に立ったことがわかりました。
「ウェストンの足跡」の一覧を作成した際この文献は目を通し、それで「一ノ沢ルート」と記載したのに、すっかり忘れておりました。全く情けない限りです。
 一ノ沢遡行ということはわかったが、コースタイムを整理していて、北側の鞍部(常念乗越)に達するまでの時間がウェストンにしては長すぎるのが気になった。
ウェストン一行は岩原〜北側の鞍部』に12時間15分かかっている。現在は歩くことがないアプローチの3時間(『8km以上の草原歩き』*)を除いても9時間15分(555分)である。
これに対し私たちは「一ノ沢コース」で「駐車場〜常念乗越」が3時間11分(191分)
Y(山の手帳)/W(ウェストン)=191分/555分≒0.34
もちろん、沢の遡行と整備された一般道歩きをそのまま比較しても無意味、そこで、乱暴であるが、丹沢の戸沢出合〜塔ノ岳の水無川本谷遡行と一般道を歩いたときの休憩混みのコースタイムを比較し、その比率で修正してみた。
191分(山の手帳の「一ノ沢コース」の実績)*(297分(本谷遡行実績)/130分(一般道の推定時間))
≒436分(山の手帳の一ノ沢遡行に要する推定時間)
これを基に一ノ沢遡行におけるY/Wを計算してみると
Y(山の手帳)/W(ウェストン)=436分/555分≒0.79
これで、今回の私たちは速かったと考えるのは早計、駐車場〜常念乗越が3時間11分は極めて平凡なコースタイム。もちろん装備の重量の違い(日帰りと幕営装備)やパーティー構成(ウェストン一行は7人・注2)もあるが、同じ値が奥穂南稜では1.6や霞沢八右衛門沢で2.1であったことを勘案すると、ウェストンの一ノ沢遡行は予想以上に大変なものだったのかもしれない。ただ、この点を真面目に検証するなら、やはり一ノ沢を遡行するしかないのだが・・・・。

*現在の「岩原交差点」〜「ヒエ平登山口」までは一ノ沢林道経由で約10km、駐車場までなら約9km。
(注2)『日本アルプス登攀日記』によると、途中で1時間もの朝食をとったり、『案内人たちがずっと遅れたので激流で水浴して待ち、苦情を言った』等の記述があり、上条嘉門次や根本清蔵が同行した山行のようにはいかなかったようです。
ちょっと驚いたのは、常念乗越の記述に『鞍部を越えたところの松の中に小屋があるはずだったが、別の場所へ移ってしまっていた』とあったこと。常念小屋ってそんなに歴史のある小屋だったのですね。
ウェストンの常念岳登山1894年8月7日〜8日
日本アルプス・登山と探検(W.ウェストン著・岡村精一訳・平凡社ライブラリー)』及び『日本アルプス登攀日記(W.ウェストン著・三井嘉雄訳・平凡社ワイド版東洋文庫)』の記述に基づきコースタイムを整理してみた。

豊科−岩原(堀金村烏川)8/7 7:00−(8km以上西方へ続く草原〜山の斜面沿いの小径(3時間・2度烏川を橋で渡る))−一ノ沢伝いの登り(10:00〜11:00朝食〜左岸よりのでこぼこ道で時折川底歩き〜12:00水浴)−川床の遡行(合計5時間・急流の川床歩き〜15:00最初の雪渓(2160m)〜川床の登攀(2時間)〜右岸の高巻き〜裂けた花崗岩の急登〜ハイマツの合間の草地)−19:15北側の鞍部(2580m・五葉松のある尾根上の平坦地(常念乗越))8/8 7:40−(安山岩が壊れてごつごつした北側尾根の登り)−8:30常念岳(3000m)9:30−9:58常念乗越11:00−(森林)−奥常念沢と一ノ沢の合流点−12:00少し前 最初の雪渓(2時間休憩)−18:30岩原

【行程】10/12(水)日帰り
自宅(横浜)2:10=(第三京浜・環八・R20・首都高(調布IC入り)・中央道・長野道)=豊科IC5:20=駐車場(ヒエ平1.1km手前)6:00/10---(常念岳往復→【山行データ】参照)---駐車場14:00/15=ウェストン碑見物(須砂渡)=豊科IC15:25=(長野道・中央道・R16・R246)=帰宅19:20

【山行データ】
10/12
(水)晴れ
行動時間7時間50分(@3時間20分A2時間7分B2時間23分の合計)
@駐車場--(15分)--ヒエ平(トイレ休憩5分)--2時間51分(*途中休憩含む)-->常念乗越(休憩9分)
A常念乗越--40分(kn)--常念岳(写真・休憩50分)--34分-->常念乗越(休憩3分)
B常念乗越--2時間10分(*途中休憩含む)-->ヒエ平--13分-->駐車場
*休憩は歩き始め20分後及び以後1時間毎に1回(3〜5分)、[詳細データ]に明示されていないものあり。
[詳細データ]()内の標高及び距離は道標に表示されていたもの
駐車場(標高1230m)6:10--1.1km--ヒエ平登山口(登り距離起点・標高1360m/トイレ登山ポスト)6:25/30--山の神(ヒエ平より0.5km・標高1480m)6:39--大滝(ヒ2.1km・高1610m)7:13--烏帽子沢(ヒ2.8km高1750m)7:32--笠原沢(ヒ3.5km高1900m)8:01--(渡渉:左岸→右岸→左岸)--胸突き八丁(ヒ4.3km高2090m)8:28--(左岸の高巻き)--最終水場(ヒ4.7km高2250m)8:43/48--(尾根道)--ベンチ(ヒ5.2km高2400m)9:04--常念乗越(ヒ5.7km高2460m)9:21/30--常念岳(標高2857m)10:10(kn)/11:00(写真・大休止)--常念乗越(下り距離起点・標高2460m)11:34/37--ベンチ(常念乗越より0.5km標高2400m)11:46--最終水場(乗1km高2250m)12:00/05--胸突き八丁(乗1.4km高2090m)12:18--笠原沢(乗2.2km高1900m)12:36--烏帽子沢(乗2.9km高1750m)12:54--大滝(乗3.6km・高1610m)13:10--山の神(乗5.2km・標高1480m)13:40--ヒエ平登山口(乗5.7km・標高1360m)13:47--駐車場14:00

【参考文献】
1.
日本アルプス登攀日記(W.ウェストン・三井嘉雄訳・平凡社)
2.日本アルプス登山と探検(W.ウェストン著・岡村精一訳・平凡社ライブラリー)
3.ウォルター・ウェストン未刊行著作集上巻(W.ウェストン著・三井嘉雄訳・郷土出版社)
4.いまだ下山せず(泉康子著・宝島社文庫)
5.山と高原地図37槍ヶ岳・穂高岳(昭文社・2005年版、1997年版)

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